Web3ワークスタイルガイド

会社員向け Web3エコシステム参加者のオンボーディング・エンゲージメント支援ガイド：新しい働き方とその機会

はじめに：Web3エコシステムにおける「オンボーディング」の重要性

Web3分野は急速に発展していますが、その概念や技術、参加方法は多くの人にとってまだ複雑で分かりにくいものです。このような状況において、新しい参加者や貢献者がスムーズにエコシステムに参加し、継続的に活動していくための「オンボーディング（新規参加者の受け入れ・サポート）」と「エンゲージメント（継続的な関与）」の役割が非常に重要になっています。

これは、単に技術的なサポートだけでなく、プロジェクトの文化やツール、コミュニケーション方法などを伝え、参加者が「居場所」や「貢献機会」を見つけられるように支援する活動全般を指します。既存の組織で顧客サポート、教育研修、コミュニティ運営、人事といった経験を持つ会社員にとって、これらのスキルを活かせる新しい働き方の機会がWeb3エコシステムには存在します。

本記事では、Web3エコシステムにおけるオンボーディングおよびエンゲージメント支援の具体的な内容、会社員がどのように関われるか、始めるためのステップ、必要なスキル、そして潜在的なリスクについて解説します。

Web3エコシステムにおけるオンボーディング・エンゲージメント支援とは

Web3エコシステム、特にDAO（分散型自律組織）や特定のプロジェクトでは、組織構造がフラットであったり、参加者が世界中に分散していたりするため、新規参加者が戸惑いやすい傾向があります。オンボーディング・エンゲージメント支援の役割は、これらの参加者がスムーズにエコシステムに溶け込み、積極的に貢献できるようサポートすることです。

具体的な活動内容は多岐にわたります。

新規参加者への情報提供とガイダンス

• プロジェクトの概要、ビジョン、目的、文化、ルールなどを分かりやすく説明するドキュメントやFAQの作成・更新。
• Discordなどのコミュニティツールやガバナンスプラットフォームなどの利用方法チュートリアルの作成。
• 初めての貢献方法や、活動に参加するための具体的なステップを示すガイドラインの整備。

コミュニティ内でのサポートと交流促進

• 新規参加者からの質問に答えたり、既存のメンバーとの橋渡しをしたりするヘルプデスク/メンターのような役割。
• 参加者が互いに交流し、関係性を構築できるようなオンライン・オフラインイベントの企画・運営。
• プロジェクト内で孤立しがちなメンバーへの声かけや、活動参加への後押し。

貢献機会の発掘とマッチング

• 参加者のスキルや関心に合った貢献機会（タスクや役割）を紹介・提案。
• プロジェクトが必要とする貢献と、参加者ができる貢献を繋ぐためのコミュニケーション。
• 貢献が適切に評価され、報酬（トークンなど）に繋がるまでのプロセスサポート。

フィードバックの収集と改善提案

• オンボーディングプロセスやコミュニティ運営に関する参加者からのフィードバックを収集。
• より良い参加体験を提供するための改善策を提案し、実行に関わる。

これらの活動は、プロジェクトの活性化、貢献者の定着率向上、ひいてはエコシステム全体の成長に不可欠です。

会社員がWeb3オンボーディング・エンゲージメント支援にどのように関われるか

多くの会社員が、既存のキャリアで培ったスキルをWeb3エコシステムのオンボーディング・エンゲージメント支援に活かすことができます。

既存スキルとの関連性

• カスタマーサポート/ヘルプデスク経験: ユーザーからの問い合わせ対応、課題解決能力は、新規参加者の疑問解消やトラブルシューティングに直接役立ちます。
• 人事/研修担当経験: 従業員のオンボーディングプログラム設計や研修実施の経験は、Web3プロジェクトの新規参加者向けガイドやチュートリアル作成、教育コンテンツ提供に活かせます。
• コミュニティマネージャー/広報経験: オンライン・オフラインでのイベント企画・運営、コミュニティ内の交流促進、情報発信のスキルは、Web3コミュニティの活性化に貢献できます。
• プロジェクトマネージャー/ディレクター経験: 複雑なタスクの分解、スケジュール管理、関係者間の調整といった能力は、オンボーディングプロセスの設計・実行や、貢献機会のマッチングにおいて重要です。
• ライター/編集者経験: 分かりやすく正確な情報伝達能力は、ドキュメント作成やFAQ執筆に不可欠です。
• コンサルタント/企画職経験: 現状分析、課題発見、解決策の提案といったスキルは、オンボーディングプロセスの改善提案や、新しいエンゲージメント戦略の立案に役立ちます。

これらのスキルを持つ会社員は、Web3の技術的な詳細をすべて理解していなくても、人間関係の構築、コミュニケーション、課題解決、教育といった側面からエコシステムに貢献できます。

具体的な関わり方の例

• 特定のWeb3プロジェクトのコミュニティに参加し、新規参加者からの質問に答えるボランティア活動から始める。
• プロジェクトの公式ドキュメントやFAQを読んで改善点を提案したり、誤訳を修正したりする。
• 新規参加者向けのDiscordチャンネルで、歓迎メッセージを送ったり、プロジェクトのルールを教えたりする。
• プロジェクトが主催するオンラインイベント（タウンホールやAMAなど）に積極的に参加し、新規参加者が質問しやすい雰囲気を作る。
• 特定の貢献領域（例：記事執筆、デザイン作成）に興味を持つ新規参加者に、始め方や必要なツールを教える。
• より積極的に関わりたい場合は、プロジェクトが募集する「オンボーディング担当」「コミュニティサポーター」といった有償の役割に応募する。

最初は小さな貢献から始め、プロジェクトやコミュニティの雰囲気に慣れていくことが推奨されます。

Web3オンボーディング・エンゲージメント支援を始めるためのステップ

Web3エコシステムでオンボーディング・エンゲージメント支援の活動を始めるための一般的なステップを以下に示します。

1. Web3の基本と関心のある分野を学ぶ:

   • Web3、ブロックチェーン、暗号資産、NFT、DAOなどの基本的な概念を理解します。
   • 特に、オンボーディング支援に関わりたい特定のプロジェクトや分野（例：DeFi、GameFi、特定のDAO）について深く学習します。そのプロジェクトのビジョン、目的、主な活動、利用ツールなどを把握することが重要です。

2. 関心のあるプロジェクトのコミュニティに参加する:

   • Discord、Telegram、Twitterなどのプラットフォームで、関心のあるプロジェクトの公式コミュニティを探して参加します。
   • まずは「ROM専（読むだけ）」でコミュニティの雰囲気、メンバー間のコミュニケーションスタイル、よくある質問などを観察します。

3. 積極的に交流し、貢献の機会を探る:

   • 分からないことは質問したり、他のメンバーの質問に答えたりするなど、少しずつ交流を始めます。
   • 公式ドキュメントを読んだり、過去の議論を追ったりして、プロジェクトが抱える課題や、どのような支援が求められているかを把握します。オンボーディング関連のチャンネルや議論がないか探します。
   • 「どうすれば貢献できますか？」と率直に尋ねてみることも有効です。

4. 小さな貢献から始める:

   • 新規参加者の簡単な質問に答える、ドキュメントの小さな誤字脱字を報告する、分かりにくい部分についてフィードバックを提供するなど、無理のない範囲で貢献を始めます。
   • 貢献が認められると、より責任のある役割を任される可能性が高まります。

5. 必要なツールとセキュリティ対策を整える:

   • プロジェクトの利用するコミュニケーションツール（Discordなど）や、場合によってはウォレットなどを設定します。
   • パスワード管理、フィッシング詐欺への注意など、Web3環境における基本的なセキュリティ対策を徹底します。

必要なスキルとマインドセット

オンボーディング・エンゲージメント支援において特に重要となるスキルとマインドセットを以下に挙げます。

• 高いコミュニケーション能力: 新規参加者や既存メンバーと円滑に意思疎通を図り、分かりやすく説明する能力が不可欠です。傾聴力も重要となります。
• 忍耐力と共感力: Web3に不慣れな参加者に対して、根気強く丁寧にサポートする姿勢が求められます。相手の立場や疑問を理解しようとする共感が重要です。
• 課題解決能力: 新規参加者が直面する様々な問題（技術的なもの、理解の壁、ツールの使い方など）に対して、解決策を見つけたり、適切な情報源へ案内したりする能力が必要です。
• Web3に関する基本的な知識: 関わるプロジェクトやエコシステムに関する基本的な知識は必須です。常に新しい情報を学び続ける意欲も重要となります。
• 適応力と柔軟性: Web3の世界は変化が速く、プロジェクトの進め方やツールも常に進化します。変化に柔軟に対応し、新しい情報ややり方を素早く吸収する能力が求められます。
• 主体性と能動性: 分散型組織では、誰かが明確な指示を出すとは限りません。「何が必要か」「どうすればもっと良くなるか」を自分で考え、行動を起こす主体性が重要です。
• セキュリティ意識: 参加者のアカウントや資産を守るための基本的なセキュリティ知識を持ち、注意喚起や安全な情報提供を行う責任があります。

これらのスキルやマインドセットは、既存の会社員生活で十分に培うことが可能です。

リスクと注意点

Web3エコシステムにおけるオンボーディング・エンゲージメント支援にも、いくつかのリスクや注意点が存在します。

• 報酬の不確実性: 多くのプロジェクトでは、貢献に対する報酬が固定給ではなく、トークンでの支払い、バウンティ（懸賞金）、グラント（助成金）といった形になります。これらの価値は変動する可能性があり、必ずしも期待した収益が得られるとは限りません。無償のボランティア活動から始まることも多いです。
• プロジェクトの存続リスク: Web3プロジェクトはまだ発展途上のものが多く、計画通りに進まなかったり、資金が枯渇したりして活動を停止するリスクがあります。貢献が無駄になってしまう可能性もゼロではありません。
• 詐欺や不正行為への注意: Web3コミュニティには、残念ながら詐欺やフィッシングなどの不正行為を働く者も存在します。個人的な情報や秘密鍵の提供を求められたり、怪しいリンクをクリックさせられたりするようなケースには十分注意し、疑わしいと思ったら安易に応じないことが重要です。公式情報源を確認する習慣をつける必要があります。
• コミュニケーションの難しさ: 世界中の多様なバックグラウンドを持つ人々が集まるため、言語の壁や文化的な違い、コミュニケーションツールの特性による誤解が生じる可能性があります。丁寧で明確なコミュニケーションを心がける必要があります。
• 法規制の不確実性: Web3分野はまだ法規制が整備されていない部分が多く、将来的な規制変更が活動に影響を与える可能性も考慮する必要があります。

これらのリスクを理解し、過度な期待はせず、まずは安全な環境で情報収集や小さな貢献から始めることを推奨します。

まとめ：新しい働き方への一歩として

Web3エコシステムにおけるオンボーディング・エンゲージメント支援は、Web3の技術的な専門知識がなくても、これまでの会社員経験で培ったコミュニケーション能力やサポート経験を活かせる新しい働き方の一つです。

新規参加者を手助けし、コミュニティの活性化に貢献することは、エコシステムの成長を内側から支える重要な役割です。自身のスキルを社会に役立てたい、新しい分野で人との繋がりを築きたい、といった希望を持つ方にとって、検討に値する道筋と言えるでしょう。

まずは関心のあるWeb3プロジェクトを見つけ、そのコミュニティに参加し、どのようなサポートが求められているかを観察することから始めてみてください。小さな一歩が、Web3時代の新しい働き方への扉を開くかもしれません。