会社員がWeb3プロジェクトを支える 法務・会計・コンサルティングの新しい働き方
Web3の技術は、金融、アート、ゲームといった分野だけでなく、組織運営や契約のあり方にも変化をもたらしています。ブロックチェーンやスマートコントラクト、DAO(分散型自律組織)といったWeb3特有の要素は、これまで専門家が担ってきた法務、会計、コンサルティングといった分野にも新たな機会と課題を生み出しています。
会社員としてこれらの専門分野で経験を積んできた方にとって、Web3は既存のスキルを活かし、新しい働き方を築く可能性を秘めています。本稿では、Web3プロジェクトにおける法務、会計、コンサルティングの新しい働き方について解説します。
Web3における法務分野の新しい働き方
Web3プロジェクトは、従来の企業とは異なる法的課題に直面します。例えば、スマートコントラクトの法的有効性、トークン発行や流通に関する規制、DAOの法的性質や責任範囲など、未整備な領域が多いのが現状です。
このような状況下で、法務の専門知識を持つ人材は、プロジェクトの健全な発展に不可欠な役割を担います。具体的な働き方としては、以下のようなものが考えられます。
- 法規制調査とアドバイス: 各国の暗号資産、ブロックチェーン、トークン、DAO等に関する法規制を調査し、プロジェクトが適法に運営できるようアドバイスを提供します。特に、クロスボーダーでの活動が多いWeb3プロジェクトにおいて、各国の法規制動向を把握し、コンプライアンスを徹底する支援は重要です。
- スマートコントラクトの法的レビュー: スマートコントラクトのコードが、契約内容や意図を正確に反映しており、かつ法的に問題がないかをレビューします。技術的な理解と法務知識の両方が求められる分野です。
- 利用規約やプライバシーポリシーの作成・レビュー: Web3サービスやプラットフォームの利用規約、プライバシーポリシーなどを、Web3特有の要素(例:ウォレット利用、オンチェーンデータ処理)を考慮して作成またはレビューします。
- DAOのガバナンス設計における法務支援: DAOの定款にあたるガバナンスルールや投票メカニズムについて、法的観点からのアドバイスや設計支援を行います。
- 紛争解決支援: スマートコントラクトの実行不備やプロジェクト間のトラブルなど、Web3固有の紛争における法的解決策の検討や支援を行います。
これらの業務は、プロジェクトの正社員や契約社員として関わるだけでなく、外部の専門家として業務委託やコンサルティング契約の形で携わる機会も増えています。
Web3における会計分野の新しい働き方
ブロックチェーン上で行われる取引や、トークンエコノミー、DeFi(分散型金融)などの出現は、会計処理や財務報告に新たな課題をもたらしています。暗号資産の評価方法、ステーキングやイールドファーミングによる収益認識、トークン発行やエアドロップの会計処理など、従来の会計基準では対応しきれないケースが多く存在します。
会計の専門知識を持つ人材は、これらの複雑な取引を適切に記録・評価し、透明性のある財務報告を行う上で重要な役割を果たします。具体的な働き方は以下の通りです。
- 暗号資産の会計処理および評価: プロジェクトが保有または取引する暗号資産について、取得原価の算定、期末評価、売却損益の計上など、適切な会計処理を行います。国や地域の会計基準に基づいて対応が必要です。
- トークンエコノミーに関連する会計処理: プロジェクトが発行したトークンの会計処理(負債か資本かなど)、トークンセールによる収益認識、トークン報酬の費用計上などを行います。
- DeFi取引の会計処理: レンディング、ステーキング、流動性提供などのDeFi活動から生じる収益や費用、保有資産の評価損益などを適切に会計帳簿に記録します。
- 税務申告支援: 暗号資産取引やトークン関連の収益に関する税務申告に必要な計算や書類作成を支援します。個人や法人、国によって税法が異なるため、専門的な知識が必要です。
- ブロックチェーンデータの活用: パブリックブロックチェーン上の取引データを追跡・分析し、会計監査や不正防止に役立てるためのツールやプロセスの導入を支援します。
これらの業務も、プロジェクトの内部者として関わる場合と、外部の会計事務所や個人事業主としてサービスを提供する場合があります。
Web3におけるコンサルティング分野の新しい働き方
Web3の技術やビジネスモデルは急速に進化しており、多くの企業やプロジェクトがその導入や戦略策定において専門的な知識を求めています。コンサルティングのスキルを持つ人材は、これらのニーズに応えることで、Web3分野での新しい働き方を見出すことができます。
具体的な働き方としては、以下のような業務が挙げられます。
- Web3戦略コンサルティング: 既存企業がWeb3技術(ブロックチェーン、NFT、DAOなど)をどのように活用できるか、新しいビジネスモデルをどのように構築するかといった戦略策定を支援します。
- トークンエコノミー設計コンサルティング: プロジェクトの目的達成のために、どのようなトークン設計が適切か、どのように価値が流通するエコシステムを構築するかといった専門的なアドバイスを提供します。
- DAO組成・運営コンサルティング: 分散型組織であるDAOをどのように設立し、どのようにガバナンスを設計・実行していくかといった運営上の課題に対するコンサルティングを行います。
- Web3市場調査・分析: 特定のWeb3セクターや競合プロジェクトに関する市場調査、データ分析、トレンド予測などを行い、クライアントの意思決定を支援します。
- Web3技術導入・プロジェクトマネジメント支援: Web3技術要素(例:ブロックチェーン選択、スマートコントラクト開発)の導入に関する技術的な理解を要するアドバイスや、Web3プロジェクト特有の開発・運営プロセスのマネジメントを支援します。
コンサルティングの形態は、大規模なファームから個人の専門家まで多岐にわたり、プロジェクト単位での契約が一般的です。
これらの新しい働き方を始めるには
会社員として法務、会計、コンサルティング分野での経験がある方がWeb3でこれらの新しい働き方を始めるには、いくつかのステップが考えられます。
- Web3の基礎知識習得: まずは、ブロックチェーン、暗号資産、NFT、DeFi、DAO、スマートコントラクトといったWeb3の基本的な概念と技術について正確な知識を身につけることが重要です。信頼できる情報源(ホワイトペーパー、公式ドキュメント、学術論文、定評のあるメディア記事など)から学ぶことを推奨します。
- Web3と専門分野の関連性理解: 自身の専門分野(法務、会計、コンサルティング)がWeb3の各要素とどのように関連し、どのような課題や機会があるのかを深く理解します。関連する判例(もしあれば)、規制動向、会計基準の議論などをフォローすることが役立ちます。
- 関連コミュニティへの参加: Web3プロジェクトのコミュニティや、Web3関連の専門家が集まるコミュニティ(オンライン、オフライン問わず)に参加し、情報収集やネットワーキングを行います。具体的なニーズや課題感を知る機会となります。
- 実践機会の模索: 小規模なプロジェクトへの関与、プロボノ(無償)での貢献、関連情報の翻訳・解説など、自身のスキルを活かせる実践的な機会を探します。これにより、Web3プロジェクト特有の進め方やコミュニケーションに慣れることができます。
- 情報発信: Web3と自身の専門分野に関する知見や考察をブログ、SNSなどで発信することで、自身の専門性を示し、関連するプロジェクトから声がかかる可能性を高めます。
注意点とリスク
Web3分野での専門サービス提供には、以下のような注意点やリスクが存在します。
- 法規制の不確実性: Web3に関する法規制は世界的にまだ発展途上にあり、予期せぬ規制変更が行われる可能性があります。常に最新の法規制動向を把握し、対応する必要があります。
- 技術的なリスク: スマートコントラクトのバグやセキュリティ脆弱性、ブロックチェーンの技術的な限界など、技術的なリスクがプロジェクトの存続や価値に影響を与える可能性があります。技術の限界を理解した上でのアドバイスが必要です。
- プロジェクトの存続リスク: Web3プロジェクトは立ち上げ段階のものも多く、市場環境の変化や資金繰りなどにより、計画通りに進まない、あるいはプロジェクト自体が消滅するリスクがあります。
- 報酬の変動性: 報酬がプロジェクトのトークンで支払われる場合、その市場価値は大きく変動する可能性があります。また、DAOからの助成金(Grant)やバウンティ(Bounty)など、従来の雇用形態とは異なる報酬体系への理解が必要です。
- 情報の非対称性: Web3の技術やビジネスモデルは専門性が高いため、クライアントとの間に情報の非対称性が生じやすいです。分かりやすく、かつ正確な情報提供に努める必要があります。
- 責任範囲の明確化: 特にDAOなど、従来の組織形態と異なるプロジェクトに関わる場合、自身の責任範囲や役割を明確に定義しておくことが重要です。
これらのリスクを十分に理解し、情報に基づいた判断を行うことが、Web3分野で持続的に働くために不可欠です。
まとめと今後の展望
Web3の発展は、法務、会計、コンサルティングといった専門分野にも新たな働き方と機会をもたらしています。会社員としてこれらの分野で培った経験とスキルは、Web3プロジェクトが直面する特有の課題解決に大いに役立ちます。
これらの新しい働き方は、従来の雇用形態にとらわれず、プロジェクトベースでの関与や業務委託、DAOへの貢献といった多様な形態で実現可能です。まずはWeb3の基礎を学び、自身の専門分野との接点を探求し、コミュニティに参加することから始めてみるのが良いでしょう。
Web3分野はまだ若く、日々変化しています。しかし、その変化の速さこそが、新しい知識やスキルを積極的に学び、既存の専門性を活かせる人材にとって大きなチャンスとなり得ます。自身のキャリアをWeb3でさらに発展させる可能性を探求してみてはいかがでしょうか。