Web3ワークスタイルガイド

Web3の信頼できる情報を届ける キュレーター/アグリゲーターという新しい働き方

はじめに：Web3における情報の価値と課題

Web3の世界は急速に発展しており、日々新しい技術、プロジェクト、コミュニティが生まれています。その一方で、情報は分散しており、何が信頼できる情報源なのか、どの情報が正確なのかを見極めることが難しくなっています。このような情報過多の状況において、質の高い情報を収集、整理し、分かりやすく届ける役割の重要性が増しています。

この情報過多の時代に求められているのが、「キュレーター」や「アグリゲーター」といった役割を担う人々です。Web3領域における彼らの活動は、単なる情報の羅列ではなく、特定のテーマに沿って情報を精査し、文脈を与え、信頼性を評価した上で、必要としている人々に届けるという、高度な情報編集能力が求められる新しい働き方と言えます。

Web3におけるキュレーター/アグリゲーターとは

「キュレーター」とは、美術館の学芸員のように、特定の分野やテーマに関する情報を収集、選別、整理し、価値付けを行う役割を指します。Web3においては、特定のブロックチェーンエコシステム、DAO（分散型自律組織）の動向、NFT（非代替性トークン）アート、DeFi（分散型金融）プロトコルなど、多様な分野の情報キュレーションが考えられます。

一方、「アグリゲーター」は、異なる場所にある情報を集約し、一覧できるように整理する役割です。ニュースアグリゲーターなどが典型的な例ですが、Web3においては、多様なソーシャルメディア、フォーラム、プロジェクトの公式発表などを横断的に収集し、特定のダッシュボードやニュースフィードとして提供する活動が該当します。

Web3におけるキュレーター/アグリゲーターは、これらの役割を単独あるいは組み合わせて行い、読者やコミュニティメンバーが膨大な情報の中から、自分にとって価値のある信頼できる情報を見つけやすくすることを目的とします。

Web3時代のキュレーション/アグリゲーションの具体的な仕事内容

Web3の世界でキュレーターやアグリゲーターとして活動する場合、以下のような具体的な仕事内容が考えられます。

1. 情報源の特定と収集:

   • 公式ドキュメント、技術文書（ホワイトペーパーなど）の読解
   • プロジェクトチームやDAOメンバーの発言（Discord, Twitterなど）の追跡
   • 信頼できるインフルエンサーや研究者の情報のモニタリング
   • オンチェーンデータの分析に基づく情報の収集（例: 大口取引の動向、特定のスマートコントラクトの利用状況）
   • 関連ニュースサイト、ブログ、ニュースレターからの情報収集

2. 情報の評価と検証:

   • 収集した情報の真偽、信頼性、正確性の評価
   • 複数の情報源とのクロスチェック
   • 情報の背後にある文脈や意図の理解

3. 情報の整理と構造化:

   • 特定のテーマやカテゴリ（例: イーサリアムのレイヤー2最新情報、特定のDAOの提案進捗）ごとに情報を分類
   • 時系列、重要度、関連性などに基づいて情報を整理
   • 難解な技術内容や専門用語を平易な言葉で解説するための準備

4. 情報の配信と共有:

   • ブログ、ニュースレター、ポッドキャスト、動画コンテンツなどでの発信
   • Twitter, Discord, Telegramなどのソーシャルメディアを通じた速報や共有
   • 特定のWeb3コミュニティ（DAO、プロジェクト）内での情報共有や議事録作成
   • 情報集約プラットフォームやダッシュボードの開発/運営への貢献

5. コミュニティとの連携:

   • コミュニティメンバーからの質問への回答や情報提供のサポート
   • コミュニティで議論されているトピックの要約や背景説明

これらの活動を通じて、キュレーター/アグリゲーターは、Web3のエコシステムにおける情報格差を埋め、新規参入者の学習を助け、既存参加者の意思決定をサポートするという重要な役割を果たします。

なぜWeb3でこの働き方が重要なのか

Web3の世界では、以下のような理由から情報のキュレーション/アグリゲーションの重要性が際立っています。

• 情報の分散性: 情報が特定の管理主体によって中央集権的に管理されていないため、多様な場所に散らばっています。
• 情報の非対称性: プロジェクトチーム、初期参加者、熱心な開発者などの間では情報が行き交う一方で、多くの一般ユーザーや新規参入者には情報が届きにくい状況があります。
• 情報の専門性: Web3技術、トークンエコノミクス、ガバナンスモデルなどは専門性が高く、理解には一定の学習が必要です。
• 詐欺や誤情報の蔓延: 新しい技術やプロジェクトの勃興に乗じて、詐欺的な情報や誤情報が拡散しやすい性質があります。
• 急速な変化: Web3の世界は変化が非常に速く、常に最新情報を追うことが困難です。

このような環境において、信頼できるキュレーターやアグリゲーターの存在は、ユーザーが安全かつ効率的にWeb3の世界に関わるための羅針盤となります。

どう始めるか：キュレーター/アグリゲーターへの道筋

会社員としてWeb3のキュレーター/アグリゲーターを目指す場合、いくつかのステップが考えられます。

1. Web3の基礎知識習得: ブロックチェーンの仕組み、主要なチェーン（例：イーサリアム、ビットコイン）、主要な概念（DeFi, NFT, DAOなど）について基本的な理解を深めます。信頼できるドキュメントや学習リソースを活用することが推奨されます。
2. 特定の分野への特化: Web3全体を網羅することは難しいため、自身の関心やこれまでの経験を活かせる特定の分野（例：特定のゲーム系NFT、環境問題に取り組むDAO、分散型ストレージ技術など）に焦点を当てると、専門性を築きやすくなります。
3. 情報収集習慣の確立: 信頼できる情報源（プロジェクト公式Discord/Twitter、一次資料、評価の高いリサーチレポートなど）を特定し、定期的に情報収集する習慣を身につけます。
4. アウトプットの開始: 収集・整理した情報を発信するプラットフォームを選び、小規模でも良いのでアウトプットを開始します。ブログ、ニュースレター、Twitterスレッド、特定のDiscordサーバーでの貢献などが考えられます。最初は特定のテーマに関する週ごとの簡単なまとめなどから始めると良いでしょう。
5. 信頼性の構築: 発信する情報の正確性を常に確認し、誤りがあれば訂正します。情報の出典を明記するなど、透明性を意識することが信頼構築には不可欠です。
6. コミュニティへの参加: 興味のあるプロジェクトや分野のコミュニティに参加し、積極的に情報交換を行います。他の参加者からの質問に答えたり、自身の知見を共有したりすることで、評価や信頼を得ることができます。

キュレーター/アグリゲーターに必要なスキルと資質

この新しい働き方で活躍するためには、以下のようなスキルや資質が役立ちます。

• リサーチ能力: 多様な情報源から必要な情報を見つけ出す能力。
• 批判的思考力: 情報の真偽を見抜き、偏見や誤情報に惑わされない力。
• 情報の整理・分析力: 収集した情報を体系的に整理し、要点を掴む能力。
• コミュニケーション能力: 複雑な内容を分かりやすく、正確に伝える文章力や説明力。
• Web3への継続的な学習意欲: 技術やエコシステムの変化に追随し、常に最新情報を学び続ける姿勢。
• 誠実さと透明性: 情報の取り扱いにおいて、誠実かつ透明性の高い姿勢を保つこと。

収益モデルの可能性

Web3におけるキュレーター/アグリゲーターの活動から収益を得る方法はいくつか考えられますが、確立されたモデルはまだ発展途上です。

• コンテンツ収益: ブログやニュースレターでの広告収入、有料コンテンツ、視聴者からの寄付など。
• プロジェクト/DAOからの報酬: 特定のプロジェクトやDAOが、質の高い情報発信やコミュニティ貢献に対してグラント（助成金）や報酬（トークンや法定通貨）を提供する場合があります。DAOのメンバーとして貢献度に応じて報酬を得るモデルも考えられます。
• アフィリエイト: 関連サービスやプロダクトを紹介することで報酬を得る方法ですが、情報の信頼性を損なわないよう、慎重な取り組みが必要です。
• コンサルティング: Web3プロジェクトや企業に対して、市場動向や情報戦略に関する専門知識を提供することで収益を得る。

これらの収益モデルは、活動の規模や信頼性、選択するプラットフォームによって大きく異なります。収益化よりも、まずは信頼できる情報発信者としての地位を確立することに重点を置く方が、長期的な活動につながる可能性があります。

リスクと注意点

Web3における情報キュレーション/アグリゲーションの活動には、以下のようなリスクや注意点が存在します。

• 情報の正確性担保の難しさ: 変化が速い分野であり、常に最新かつ正確な情報を維持するのは容易ではありません。誤った情報を伝えてしまうリスクが伴います。
• 責任問題: 発信した情報に基づいてユーザーが何らかの行動を起こし、損失を被った場合などに、法的な責任問題に発展する可能性もゼロではありません。特に投資に関わる情報の発信には細心の注意が必要です。
• 市場変動や規制リスク: Web3市場は価格変動が大きく、各国の規制動向も不確実です。これらの情報に関する発信は、あくまで現状の情報提供に留め、将来を保証するものではないことを明確にする必要があります。
• 詐欺や誤情報の拡散に加担するリスク: 意図せずとも、信頼できない情報源からの情報や、詐欺的なプロジェクトの情報を拡散してしまう可能性があります。
• 収益の不安定さ: 特に初期段階では、活動に対する収益が不安定である可能性が高いです。

これらのリスクを理解し、情報発信においては常に情報のソースを明確にし、断定的な表現を避け、投資判断は自己責任であることを明記するなど、誠実かつ責任ある姿勢が求められます。

まとめ：信頼が鍵となる新しい働き方

Web3の世界におけるキュレーター/アグリゲーターという働き方は、情報過多という現代的な課題に対する一つの解となり得ます。信頼できる情報を収集、整理、発信する能力は、Web3エコシステムの健全な発展に貢献する重要なスキルです。

この働き方は、特定の技術開発スキルがなくても、リサーチ能力、分析力、コミュニケーション能力といった多様なスキルを活かすことが可能です。会社員として培った情報収集や整理のスキル、あるいは特定の業界知識などを活かし、Web3の特定の分野に特化した情報キュレーションから始めることも十分に考えられます。

収益モデルはまだ発展途上であり、活動には情報の正確性や責任に関するリスクも伴いますが、Web3が社会に浸透していくにつれて、質の高い情報に対するニーズはますます高まるでしょう。信頼を第一に、継続的に学び、誠実に情報を発信することで、Web3時代における新しいキャリアや副業の道を切り拓く可能性を秘めている働き方と言えます。