会社員スキルを活かすWeb3貢献:データの可視化とレポート作成
Web3時代におけるデータ活用の重要性
Web3の世界では、多くの情報がブロックチェーン上に公開され、誰でもアクセス可能になっています。しかし、これらの生データは膨大で複雑であり、そのままでは容易に理解することは困難です。プロジェクトの健全性、活動状況、ユーザーの動向などを正確に把握し、適切な意思決定を行うためには、データの収集、分析、そして「可視化」や「レポート作成」が不可欠となります。
これまで企業でデータ分析や資料作成、プレゼンテーションなどの経験を積んできた会社員にとって、Web3プロジェクトにおけるデータの可視化・レポート作成は、既存のスキルを活かせる新たな貢献機会となり得ます。
Web3プロジェクトで求められるデータ可視化・レポート作成とは
Web3プロジェクトは分散化されていることが多く、従来の組織構造とは異なります。そのため、活動状況や財務状態、ガバナンスの進捗などをコミュニティ内外に透明性高く共有することが重要視されます。ここでデータの可視化・レポート作成が大きな役割を果たします。
具体的には、以下のようなデータに基づいた可視化やレポートが求められます。
- オンチェーンデータ:
- トランザクション数、ガス代(手数料)、ネットワーク利用状況
- トークンの発行量、流通量、主要ウォレットの保有状況
- DApp(分散型アプリケーション)のユーザー数、利用頻度、特定の機能の利用状況
- DeFiプロトコルにおける預け入れ総額(TVL: Total Value Locked)、取引量
- NFTプロジェクトにおける取引量、フロアプライス、保有者数、ミント状況
- DAOの投票活動、提案数、参加者数
- オフチェーンデータ:
- コミュニティ活動(Discord, Telegram, Twitterなど)のエンゲージメント、メンバー数
- 開発リポジトリ(GitHubなど)の活動状況、コントリビューター数
- プロジェクトのロードマップ達成状況
- 市場のニュースやセンチメント
これらのデータを収集し、グラフやダッシュボード、分かりやすいレポート形式で提供することで、以下のような目的を達成できます。
- 意思決定の支援: プロジェクトチームやDAOメンバーがデータに基づいて戦略を立てる。
- 透明性の向上: プロジェクトの活動状況をコミュニティや外部のステークホルダーに分かりやすく伝える。
- 進捗の共有: ロードマップ達成度や主要指標の推移を報告する。
- 課題の発見: データから問題点や改善点を見つけ出す。
- 貢献者の評価: 個々の貢献がプロジェクトに与えた影響をデータで示す。
会社員が活かせるスキルと具体的な貢献方法
データの可視化・レポート作成において、会社員が持つビジネススキルは非常に有用です。
-
データ分析・収集スキル:
- どこからデータを取るか: ブロックチェーンエクスプローラー(Etherscan, BscScanなど)、特定のチェーンやプロトコルが提供するAPI、Dune AnalyticsやFlipside Cryptoのようなオンチェーンデータ分析プラットフォームからデータを抽出するスキル。
- データの整理・加工: 取得した生のデータを分析しやすい形に加工するスキル(Excel, SQL, Python/Pandasなど)。
- データ分析: 統計的な知識や論理的思考力を用いて、データから意味のある知見を導き出すスキル。
-
可視化ツール・技術の活用:
- オンチェーンデータ特化ツール: Dune Analytics, Flipside Cryptoなどのプラットフォーム上でクエリを書いてデータを抽出し、グラフやダッシュボードを作成するスキル。これらのツールはSQLに似たクエリ言語を使用することが多いです。
- 汎用可視化ツール: Tableau, Power BI, Google Data Portal(現Looker Studio)など、ビジネスで広く使われるBIツールの操作スキル。オフチェーンデータとの組み合わせや、より高度なレポート作成に適しています。
- プログラミングによる可視化: Python(Matplotlib, Seaborn, Plotlyなど)、JavaScript(D3.jsなど)を用いてカスタムのグラフやインタラクティブなダッシュボードを作成するスキル。より柔軟な表現が可能になります。
-
レポート作成・コミュニケーションスキル:
- 構成力: 分析結果をどのようなストーリーで伝えるか、誰に伝えるかを考慮したレポート構成スキル。
- ライティングスキル: 分析結果や示唆を正確かつ分かりやすく記述するスキル。専門用語を避け、ターゲット読者に合わせた表現を選ぶ能力。
- 資料作成スキル: PowerPoint, Google Slides, Markdownなどを用いて、図表を適切に配置し、視覚的に分かりやすい資料を作成するスキル。
- プレゼンテーションスキル: 作成したレポートの内容を口頭で分かりやすく説明するスキル。コミュニティコールや会議での報告が想定されます。
具体的な貢献としては、以下のような活動が考えられます。
- 定期レポートの作成: プロジェクトの週次・月次レポートとして、主要KPI(重要業績評価指標)の推移を可視化・報告する。
- 特定の分析テーマに基づくレポート: 例えば「NFT購入者の行動分析」「ガバナンス投票に参加するユーザー層の分析」「特定の機能改善が利用率に与えた影響」など、具体的なテーマについて掘り下げたレポートを作成する。
- ダッシュボードの構築: Dune Analyticsなどで、誰でもリアルタイムに近いデータを確認できるインタラクティブなダッシュボードを作成・公開する。
- 教育コンテンツの作成: プロジェクトのデータやオンチェーンデータの見方、分析方法を解説するチュートリアルや記事を作成する。
始め方と必要なステップ
Web3におけるデータの可視化・レポート作成に貢献を始めるためのステップは以下の通りです。
- Web3と関連分野の基礎知識習得: ブロックチェーンの基本的な仕組み、貢献したいプロジェクトが属する分野(DeFi, NFT, DAOなど)の概要を理解します。
- データ分析・可視化スキルの棚卸しと補強: 既存のデータ分析・資料作成スキルを確認し、オンチェーンデータ分析ツール(Dune Analyticsなど)やSQL、Pythonなど、必要に応じて学習を進めます。既存のスキルでどこまでできるか把握することが重要です。
- 興味のあるプロジェクトを見つける: 自身が関心を持てる、データが公開されているWeb3プロジェクトを探します。活動が活発なプロジェクトはデータも豊富にある傾向があります。
- 公開データを探索し、簡単な分析を試す: プロジェクトが公開しているデータソース(ブロックチェーンエクスプローラー、Duneの公開ダッシュボードなど)を調査し、簡単な指標の算出や可視化を試みます。
- 分析結果をコミュニティで共有する: 作成した簡単な可視化や分析結果を、プロジェクトのDiscordやフォーラムなどで共有してみます。建設的なフィードバックを求めることで、改善点や次にやるべきことが見えてくる場合があります。
- 貢献の機会を探す: プロジェクトの貢献者プログラム、DAOのグラント(資金提供)、特定のタスク募集などを探します。非公式な貢献を続ける中で、正式な役割に繋がる可能性もあります。
考慮すべきリスクと注意点
Web3におけるデータ可視化・レポート作成には、いくつかの考慮すべき点があります。
- データの複雑性と非標準化: オンチェーンデータは構造が多様で、チェーンやプロトコルによってデータの取得方法や解釈が異なる場合があります。オフチェーンデータも様々なソースに分散しています。データの正確性を担保するためのスキルと労力が必要です。
- ツールの学習コスト: Dune Analyticsなどのオンチェーンデータ分析ツールは強力ですが、独自のクエリ言語や仕様を学ぶ必要があります。
- 分析の解釈: 同じデータでも、分析者の視点や仮定によって異なる結論が導かれる可能性があります。客観性を保ち、根拠に基づいた報告を心がける必要があります。
- 無償貢献からのスタート: 多くのWeb3プロジェクトでは、最初は有償の仕事ではなく、コミュニティへの無償貢献としてデータ分析やレポート作成を行うことから始まる場合があります。長期的な視点を持つことが重要です。
- 情報の変動性: Web3の世界は変化が速いため、データや分析結果がすぐに古くなる可能性があります。継続的な監視と更新が求められます。
まとめと将来展望
Web3プロジェクトにおけるデータの可視化とレポート作成は、透明性の向上、意思決定の支援、コミュニティへの情報共有において非常に重要な役割を担っています。ビジネスで培ってきたデータ分析、資料作成、コミュニケーションといったスキルを持つ会社員にとって、これはWeb3の世界に貢献し、新たな働き方を築く絶好の機会となり得ます。
この分野はWeb3エコシステムの拡大とともに、その重要性を増していくと考えられます。データに基づいた客観的な視点と、それを分かりやすく伝える能力は、今後ますますWeb3プロジェクトで価値あるものと評価されるでしょう。まずは、興味のあるプロジェクトのデータに触れ、小さな可視化や分析から始めることが、この新しい働き方への第一歩となります。