会社員のためのオンチェーンデータ分析入門 Web3時代の新たな知見獲得と貢献機会
Web3の世界に足を踏み入れたいと考えつつも、自身のスキルをどう活かせるか、具体的な働き方や貢献の機会が掴めず不安を感じている会社員の方は少なくありません。Web3はエンジニアリングやデザインといった特定の専門スキルが重視されるイメージがあるかもしれませんが、既存のビジネススキル、特にデータ分析能力はWeb3エコシステムにおいても非常に価値のあるものです。本記事では、Web3特有の「オンチェーンデータ」に着目し、その基本から、会社員が持つデータ分析スキルをどのように活用し、Web3時代の新たな働き方や貢献機会を見つけられるかを解説します。
Web3とオンチェーンデータの重要性
Web3の世界は、ブロックチェーン技術を中心に構築されています。ブロックチェーン上で行われるトランザクション（取引）やスマートコントラクトの実行といった活動は、オンチェーンデータとして記録されます。このデータは、ブロックチェーンの特性上、基本的に誰でも閲覧可能であり、改ざんが非常に困難です。
これまでのインターネット（Web2）におけるデータは、特定の企業やサービスによって管理され、その内部で利用されることが一般的でした。これに対し、Web3では、分散化されたパブリックブロックチェーン上に記録されたデータが、透明性の高い状態で利用できるという大きな違いがあります。このオンチェーンデータを分析することは、Web3エコシステムの動向やプロジェクトの活動状況、ユーザーの振る舞いを理解する上で非常に強力な手法となります。
オンチェーンデータ分析で何ができるか
オンチェーンデータを分析することで、以下のような様々な知見を得たり、具体的な活動につなげたりすることが可能です。
- プロジェクトの健全性評価: 特定のプロトコル（ブロックチェーン上のアプリケーションやサービス）のトランザクション数、アクティブユーザー数、預け入れ資産額（TVL: Total Value Locked）などを追跡することで、そのプロジェクトがどれだけ利用されているか、健全に機能しているかを評価できます。
- ユーザー行動の理解: どのようなユーザーが、いつ、どのような操作を行っているか、スマートコントラクトとどのようにインタラクションしているかなどを分析することで、実際のユーザーのニーズや課題を把握できます。
- トレンドの早期発見: 新しいプロジェクトの活動の兆候、特定の種類のNFTの取引量の急増、特定のDeFiプロトコルへの資金流入などをデータから読み取ることで、市場のトレンドを早期に察知できる可能性があります。
- セキュリティリスクの特定: 不正なトランザクションパターンや、未知のスマートコントラクトの挙動を分析することで、潜在的なセキュリティリスクや脆弱性を発見する手がかりとなることがあります。
- 経済活動の可視化: ブロックチェーン上のトークンの流通量、取引所の出入金、ガス代（トランザクション手数料）の推移などを分析することで、Web3エコシステム全体の経済活動やボトルネックを理解できます。
これらの分析は、個人の投資判断に役立つだけでなく、Web3プロジェクトの改善提案や、新しいビジネスモデルの検討、コミュニティへの貢献など、多様な活動の基盤となり得ます。
会社員が持つデータ分析スキルを活かす方法
普段の業務でデータ分析やリサーチ、企画立案に携わっている会社員の方にとって、オンチェーンデータ分析は既存のスキルを直接活かせる分野です。具体的には、以下のような形で新しい働き方や貢献機会を見つけることが考えられます。
- Web3プロジェクトのリサーチャー・アナリスト: プロジェクトの運営チームやコミュニティに対し、オンチェーンデータに基づいた市場分析、ユーザー分析、競合分析レポートを提供する形で貢献できます。これは副業としても可能ですし、Web3関連企業への転職・参画の道にもつながります。
- データに基づいたコミュニティ貢献: 参加しているDAOやプロジェクトのコミュニティに対し、オンチェーンデータを可視化したダッシュボードを作成・共有したり、データに基づいた提案を行ったりすることで、価値あるメンバーとしての地位を確立できます。
- コンテンツクリエイター: オンチェーンデータ分析の結果を元に、市場トレンド、特定のプロジェクトの解説、ユーザー行動のインサイトなどをブログ記事、レポート、解説動画などの形で発信し、収益を得るという働き方です。
- 自身のWeb3活動の質向上: 自身のNFT投資、DeFiでの運用、DAOへの参加など、個人的なWeb3活動においてもデータに基づいた意思決定が可能になります。
オンチェーンデータ分析の始め方
オンチェーンデータ分析を始めるために、必ずしも高度な技術スキルが必要なわけではありませんが、いくつかの基礎知識やツールへの慣れが必要です。
必要な基礎知識
- ブロックチェーンの基本: 分析対象となるブロックチェーン（例: Ethereum, Polygon, Solanaなど）の仕組み、トランザクションの構造、スマートコントラクトの概念などを理解することが分析の土台となります。
- SQL: 多くのオンチェーンデータ分析プラットフォームは、データベースとして整理されたデータに対してSQLを使ってクエリを実行します。基本的なSQLの知識は必須となることが多いです。
- データ可視化ツール: 分析結果をグラフやダッシュボードとして分かりやすく表現するために、データ可視化ツールの利用スキルがあると役立ちます。
主なツールとプラットフォーム
- ブロックエクスプローラー: Etherscan (Ethereum), Polygonscan (Polygon) などのブロックエクスプローラーは、個別のトランザクションやアドレスの情報、基本的なオンチェーンデータを閲覧するのに役立ちます。これは分析の入り口として重要です。
- オンチェーンデータ分析プラットフォーム: Dune Analytics, Flipside Cryptoなどは、ブロックチェーンデータをデータベースとして提供し、SQLクエリやGUIを使って高度な分析やダッシュボード作成を可能にする強力なツールです。多くのプロジェクトやユーザーがこれらのプラットフォームで作成したダッシュボードを公開しています。
- データAPI: プログラムから直接オンチェーンデータにアクセスしたい場合は、Alchemy, Infura, The GraphなどのAPIを利用する方法があります。これはより技術的なアプローチになります。
学習方法
- オンラインコース/チュートリアル: Dune AnalyticsやFlipside Cryptoなどは公式に学習リソースを提供しています。また、UdemyやCourseraなどのオンライン学習プラットフォームでも関連コースが見つかります。
- 公開されているダッシュボードを読み解く: Dune Analyticsなどで公開されている著名なダッシュボードのクエリを読み解くことは、具体的な分析手法を学ぶ上で非常に効果的です。
- コミュニティに参加する: 分析ツールや特定のプロジェクトに関するコミュニティには、データ分析に詳しいメンバーが多くいます。質問したり、議論に参加したりすることで学びを深めることができます。
オンチェーンデータ分析における注意点
オンチェーンデータは透明性が高い一方で、その解釈には注意が必要です。
- ウォッシュトレードやBOTの存在: 見かけ上のトランザクション数や取引量が、必ずしも実態を反映しているとは限りません。自動化されたBOTやウォッシュトレード（自己取引）が含まれている可能性があります。データのノイズを理解し、慎重に分析する必要があります。
- アドレスの匿名性/擬名性: オンチェーンデータは公開されていますが、通常は個人の実名ではなく匿名（または擬名的なアドレス）に関連付けられています。特定のアドレスが誰であるかを正確に把握することは難しく、ユーザー属性の分析には限界があります。
- データの完全性と信頼性: 利用するツールやAPIによって、提供されるデータの範囲や鮮度、信頼性が異なる場合があります。複数のソースを参照するなどの工夫が必要です。
- 市場全体の変動性: オンチェーンデータが良好に見えても、仮想通貨市場全体の動向やマクロ経済の影響を受けて、プロジェクトの価値が変動する可能性は大いにあります。データ分析はあくまで判断材料の一つとして捉えるべきです。
まとめと次のステップ
オンチェーンデータ分析は、Web3エコシステムの核心に触れることができる強力なスキルです。既存のデータ分析スキルを持つ会社員にとって、これはWeb3の世界で自身の専門性を活かし、新しい働き方や貢献機会を見つけるための具体的な道筋の一つとなります。
まずは、Etherscanのようなブロックエクスプローラーで実際のトランザクションを見てみることから始め、次にDune AnalyticsやFlipside Cryptoのような分析プラットフォームに触れてみることをお勧めします。公開されているダッシュボードを見て、どのようにデータが可視化され、どのようなクエリが使われているのかを学ぶことで、具体的なイメージを掴むことができるでしょう。
オンチェーンデータ分析のスキルを磨くことは、Web3時代の変化を理解し、その中で自身のキャリアや活動の可能性を広げるための貴重な一歩となるはずです。